カボチャ大王、寝てる間に…。U

                *昨年のお話はこちら→
 

 

           




 青々と瑞々しかった麦畑がいつの間にか、それは綺麗な金色の海になる。穂先の充実を示してか、風にそよぐ音も大きく響くようになると、そろそろその風も急いでいるのか素っ気なくなり。見上げた青空が少しだけ、いつもより遠くなったような気がして。ああもうそんな頃合いになるのだな、早いもんだななんて、あらためて気がついて…。

  「瀬那様ーっ!」

 少ぉし乾き始めた秋の風の中、それはよく通る声にて名を呼ばれ、小麦の穂の中、今にも埋まりそうになっていた小さな影がハッとした。今戻りますと振り返り、あたふたと駆け戻って来る様子の何とも愛らしく。彼は一番位の高き存在へ直接仕える立場の人。よって、微妙なところで従者の中でも上位にいるものだのに。その可憐さや健気さで皆から可愛がられているそのせいで、こんな風な所作を見せると、我慢強くも感情を隠し切ること石の如しな隋臣長なども、微笑ましいと感じたそのまま、ついついその頬を緩めかかってしまうほど。まだまだ年若な御者見習いの青年なぞは、
「…あ。」
 吹き抜ける風に煽られてのこと、煌めく穂先の波が大きくうねっては縦横無尽に躍り回っている、広大な小麦畑の海の只中。唯一の別な色彩、黒い髪を乗せた小さな頭が、とうとう“ぼそんっ”と埋まってしまって姿が見えなくなった顛末に、思わずの声がつい出てしまい。ああいけない、自分は居ても居ない存在であらねばならぬのにと。でもでも、お助けに行かなくてもいいのかしらと。どうしたものかと戸惑って見せていたりもし。おどおどと周囲の上の御方たちを見回していたものへ、馬車の中から“大丈夫だ”と制する手の所作が見え、その手が見えた小窓のついた扉がなめらかに押し開かれる。その馬車がさほどに豪奢な作りではないのも、連なっていた供の者たちの数が少ないのも、主人の控えめな人柄や方針が現れてのことであり。お忍びの外出であるからという意識はないからこそ、気安く乗り物からも降りて来られ、従者が広げた外套をやはり手振りひとつでお断りになると、それは健やかな足取りにて眼前に広がる見事な金の大海原へとその歩みを運ばれる。街道に沿っての柵があるものの、長身でおわす主人にはさして障害にはならず、片手を掛けられてからはあっと言う間に、若々しき躍動を発揮して軽々と飛び越えてしまわれる。そのお姿のまた、何とも壮健そうでで荘厳で、存在感のおわしたことか。それからそれから、そのままわしわしと衒いなく前進してゆかれ、ひょいと一瞬肩まで沈んだその身が振り返れば、
「あ、あのあの、えと…。///////
 愛らしい装束のあちこちに草の葉をまぶした小さな少年が、右手には探していたハンカチを握ったまま、恐縮の塊になって腕の中へと抱えられており。居残っていた人々をほっとさせたと同時に、くすくすと温かい、こらえ切れずの苦笑を招いてもいたりする。
「あのあの、すみません。ボク、あの…っ。///////
 畏れ多くもこのように抱えていただくなんて、いやそもそも、もたもたしていたのが原因で、わざわざその御身をお運びいただいてしまっただなんてと。申し訳無いやら恥ずかしいやら、ただでさえ小さなその身を、ますますのこと縮めてしまった小さな少年だったのだけれども。

  「何を謝る。」

 静かで深みのある声が、真上から優しく降って来て。恐慌状態に陥りかけていた少年の、小さな小さなお胸の鼓動をそっと宥めて下さって。
「思いの外、深い畑であったのに、そこまでを気づいてやれず、悪いことをしたのは私の方だ。それに…。」
 自分へと非を引き取るようなお言いようをなさるのへ、少年が再び慌てかかったのを遮って。

  「こんなにも公明正大、
   何を憚ることもなくこんな光景の中で抱きかかえられる機会なぞ、
   城にいては そうそうないからな。」

 それが自分にも嬉しいのだと、しれっと言い放った主上のお言いようへ、

  「〜〜〜〜〜。//////////

 そろそろ金から紅へと変わりかかる頃合いの、黄昏の夕陽を待たずして。腕へと抱えた小さな少年の頬が真っ赤になったのへ、それは雄々しきご主人様が、ますますのこと、口許の笑みを深いものにされたのだった。………もっとも、彼のそういう微妙な表情を読み取れる者は相当に限られているのだが。






            ◇



 豊かな国土と働き者で忠義に厚い国民たちに恵まれて、それは栄えている王国があった。そこを治める王族の方々もまた、それぞれの代々に優れた賢王とそれを骨惜しみせず守り支える頼もしき親族たちとを輩出し、盤石のままに数百年。始まりの物語に神話が融合するほどにも、それはそれは長く続いて来た素晴らしき王国であったのだけれども。永遠不変、永劫
(ずっと)や絶対(きっと)は神が許さじと、人々への試練を与えたもうたものなのか。数年ほど前から とある火種が芽生え出し、王家やそこへ直接仕えし方々が、たいそうお心を悩ませておいでであったとか。現王には、さして年も離れぬ二人の御子息がおいでになられ、それぞれに健やかに、素晴らしき王子にお育ちになられておいでだったのだけれども。何の拍子にか、皇太子であらせられる上の王子の様子に微妙な変化が現れ始めて。期待が大きすぎたのか、それへと律義にも完璧に応えねばと感じてしまわれる繊細さをお持ちであったからこその歪みが生じてしまったか。だとするなら哀しき破綻、選りにも選って何の疑心も慢心もお持ちではない弟王子のことを、何かと疑うようになられ、試すかのような言動を取られるようになられ。しまいには、無理から隙を探してはそこへと非難の鉾を向け、王城から追放せしめんとまで図る始末。物静かで寡欲な弟王子は、ある意味で凡庸なほどに、ただただ父や兄を支えてお助けすることしか頭にはない方だのに。そのためにとだけ、体を鍛えて最も頼もしき鉾となりましょう、いろいろと学んで盾になりましょうと静かに静かに努力を重ねておいでな方なのに。あれはいつの日にか自分を倒して王座に就かんと思っているのだと、根拠のないこと、さんざんに疑いをかけておいでの兄殿下であり。あからさまな罵倒を受けても、それでも耐え忍ばれる弟君には、もともと集まっていた人望がますますのこと集まったから、さあ、それもまた兄王子には気に入らない。諸国から知性の高きことで名のある賢者や、腕に覚えの剣豪・豪傑などなどが、彼の人格を慕って集まり来ていたことを“謀反の動き”と曲解してもいて。思えばそれがコトの始まりだったのかもしれないが、今となってはもはや正しようもなく。せめて悲惨なことになる前にと、しばらく御身をお隠し下さいと、弟君へ城外への出奔をお勧めしたところが、それをもって“民草を味方につけて、本格的な叛旗を翻す気だぞ”と口走るほどものご乱心。しかも…夜中に現れたコウモリが喋っただの真っ白なネコが笑っただのと、理解不能なことまで言い出すようになられたのを機に、ああこれはもう、修復の望みもない事態なのだと、不憫ではあるが国の未来のためでもあることと、国王様も思い知った上での英断をとうとうお下しになり。
『永の働きにより疲労の澱
おりが溜まってしまった兄王子には、しばらくほど主城を離れ、東の湖畔の別邸にての無期限の静養を申し遣わす。なお、兄王子不在のままでは支障が出るとおぼしき、役目・務めの数々には、弟王子の手腕をあてるので、難儀ではあろうが各部署での調整を頼む』
 この勅命が下された折には、人々のどれほどの安堵を誘ったことか。兄王子に仕えていたものでさえ、これでもう、お慕いしていた方が日々歪んでゆかれる様を見ずともよくなるのだと、やっとのこと救われたような心地がしたというから凄まじく。それがまた、収穫の時期、豊饒祭の頃合いだったがため。大っぴらに“祝賀”と謳うことはまかりならなかったことながら、大地の恵みよありがとう、悪夢を払ってくれた神憑りがあったのならば、それへもどうもありがとうと、数年振りというほどもの心晴れやかな祭りが各地で催されたという話で。

  ――― そしてそして、
       これは限られたお城の方々だけへと授けられたる、
       それはそれは小さくて温かな幸い。

 しばし その御身をお隠しあそばせと、城の外へ出奔なされていた弟王子を、そんな正体も知らぬまま、寒夜の一時、暖かなもてなしと共に匿ってくれていたという、お隣りの領国の小さな小さな少年がいて。その健気でやさしきお助けが、それはそれは頑強で精悍なお心さえさすがに疲弊なさっておられた弟王子をどれほど慰めたか知れないとの感謝も込めて、お勉強とお行儀の見習いにとお城へ召し上げられることとなり。二人きりで暮らしていたお姉さんが心配だったが、どういう巡り合わせやら、その運びのご使者となっておられた、身分も高く聡明で勇気ある公達との恋心を育まれたということで、姉君は“輿入れ”という形にて、やはりこちらの国の住民となった…という幸せなおまけつきにて。冬将軍の使い、真白き雪が当地を訪れる前に、さながら“幸福の使者”のように歓迎を受けての登城と相成り。………それから数えて、そろそろ丸1年の歳月が経とうとしていた秋の到来だった。




 ほんの昨年のことが、ずんと遠いことのように思えるのは、それだけ充実していた日々を送れたその証し。ハロウィーンの晩が明け、それではと戻っていかれて数日後。御使者が来られて、あの方は実は尊き身の御方だったと判って、小さなセナがどれほどのこと驚いたことか。
“言われてみれば、どこか世間知らずな風もお持ちではあったけれど。”
 すぐお隣りの国でそんな騒ぎが起こっていたなんて、ごくごく普通の平民で、しかもまだ子供だったセナには到底知りようもなく。彼にだけは“見るからに”困っておいでのようだったからと、寒さを凌げるよう、むさ苦しいところですがとお家へお招きしただけのこと。そんな些細な、当たり前の小さな親切が、
“こんな、お城みたいな荘厳なお家へのご招待につながっていたなんて。”
 思ってもみなかったものねと、今でも時々信じられなくなったりするセナくんだったりするそうで。…いや、これでも天下に名だたる由緒も正しき、本物の“お城”には違いないんですけれどもね。
(苦笑) お逢いした時は旅の剣士様だと思っていた人が、実はこの国の王子様であらせられ、お困りだったところを助けた恩、どうあってもお返ししたいのでという招聘で。普通に厚遇したのでは恐れ入るばかりな彼だろうという、セナの細かい気性まで把握下さっての“お行儀見習い”という立場において下さり、一番で唯一の御縁を結びし王子のすぐ傍らにいつも居ていいとして下さって。そんな配慮のお陰様で、お城に馴染むのも早かったセナなのだけれど…実を言えば。王子の側こそ、間近に置かねば落ち着けぬと、その愛らしき姿を眸で愛でつつ、可愛いお声が紡ぐ他愛のないお話に心和ませておいでであり。
「…あ、はい。」
 行儀見習いという肩書も、無冠・無階級の者が宮廷内の“奥の院”にいるのは管理上の体裁で支障が出るかも知れないからと、言わばしょうことなしに付けられたもの。だからして、実を言えば何か仕事をという義務はないに等しい彼なのに、手が空けばすぐ、ぱたぱたと広い居室を駆け回っては何かしらのお仕事を見つけて来て。棚の整理だ窓のお掃除だ、そりゃあよく気がついてしまう働き者で。
『セナ様のお手を煩わせたとあっては、本来の役職の者が叱られますから』
 という格好ででも止めねば、一切合切に手をつけるのではなかろうかというほどにも、動き回ってる少年なものだから。そんな彼の手空きを埋めるのが、最近の王子のお仕事になりつつあるほどで。………とはいえど。生真面目で実直と言えば聞こえはいいが、口数少なく、表情も乏しく。これが唯一の瑕
きずっちゃ瑕の、ちょいと不器用な王子だもんだから。接する期間が短い者には“何かとんでもない粗相があったのだろうか”と怯えるほどにも、いつも何へでも無表情にて対されるところ。どういう訳だか、この少年は、初見の時から難無く見取って読めてしまえて。今も、王子は何も言わず、お顔だって…いつもの少ぉし硬い表情をなさったまま。ひょこりとお部屋を覗かれただとか、そんな切っ掛けがあった訳でもなく、最初から窓辺の椅子に腰掛けておられた殿下であり。だというのに。柔らかそうな黒髪をふわふわと揺らし、仔犬や仔猫のような小さきものの まめまめしさにて動き回っていた少年は。呼ばれたと判って…書き物机の上、インクや羊皮紙の補充などを手掛けていた手を止め、ぱたた…と傍らにまで寄って来る。襟のない腰までの半袖の上着に同じ生地の脛丈の細身のズボン。どちらもつややかなサテンの愛らしい小姓着で、胸元にふっくらと咲いたオーガンジーレースのリボンの飾りに、やっと慣れたのは春の頃だったか。少しほど潤みの強い、こぼれ落ちそうな大きな瞳を愛らしくも瞬かせ、座ってらしてもセナと視線の位置があんまり変わらない殿下をじぃっと見つめれば、
「…どうして判った。」
「あ、えと。そうですよね。お呼びにはならなかった殿下でしたね。」
 差し出がましかったでしょうか、すみませんと。後ずさりしかかる小さな痩躯を、なめらかな所作にて伸ばした腕で、壮健な張りをたたえた翼でもって覆うように、ふわりと…くるみ込むよに引き留めて。それでは答えになっていないという、むずがるような眼差しをなさるのへ、
「あのえと、何だかそんな気がして。」
 寡黙というより無口な方の。自分をもっと強く正しい人間にすることへとばかり構けてらしたその反動で、さして誰ぞに意識を向けることもなかったが故にの、口数の少なさだった殿下だったから。人への対し方にとことん不器用でいらっしゃり、そういうところを微笑ましきことと容認出来るほどの、理解ある懐ろ深き賢臣たちに囲まれておられたこともまた、その人性が優れていてこそなせる技と。何もかもが良い方へ良い方へと回る、運にまで恵まれた、まこと、天にも愛されておいでの素晴らしき方。
“…だって。殿下はとってもお優しくて、真面目で勤勉で、本当に本当に素晴らしいお方だもの。”
 驕ることもなく、さりとて不必要に人におもねる気配もなく。誰にも臆せず恥ずかしがらず、いつだって胸を張って天を仰げる人であれと言われた教えだけを守っていただけ。純粋でお強くて、けれど時々、そう、何かしら物問いたげな瞳をなさる。寡黙で無口で、よほどに接した蓄積のある人にしか読めないその胸の裡
うちを、この少年はどうした訳だかあっさりと、細かいところまで酌み取ってくれるので。時折は…もしかしたならそれへと故意に、心の安らぎにと触れたくなってのこと、何も言わぬまま引き寄せては小一時間ほども、無言同士でただただ見つめ合っておいでのこともあり、

  《 あれが後世の“パワフル語”に発展するんだろうか。》

 ………結構真面目なお顔になって、何を言い出す人であるやら。
《 あ、残念でした。このお話の僕は、厳密には“人”ではありません。》
《 そうそう、立派な人で無しだよな。》
《 妖一からは言われたくないんですけど、それ。》
 ご登場下さったそののっけから、マイペースで突き進んで下さってるお二方。そりゃあ危なげないままに、窓のお外の、しかもしかもお空の真ん中へと浮かんでおいでの、はっきり言って双方ともが“人で無し”の…もとえ“人外”の存在でいらっしゃり。この国の混乱を終結させるための小細工と、あの小さな少年への幸いを、ちょちょいと捻り出して下さった、魔導師さんたちではございませんか。
《 この国のどうのこうのは、どうやらおまけだったらしいけどもね。》
 あらら、桜庭さんたら、いつの間にそれをお知りになったんですの? 発案者の蛭魔さんたら、受けた恩を返さにゃならないのは掟でしようのないことだってのに、それでもけったくそが悪いからって、協力者だったあなたへもホントの真相は黙ってた筈なのに。
《 付き合いが長いとネ、何か怪しいなってのはピンと来るもんなんですよvv》
 そりゃあそりゃあ嬉しそうに、その花の顔容(かんばせ)をほころばせ、傍らの愛しの君の横顔をにこやかに見やった麗しの美丈夫さんだが、
《 ほほぉ。》
 何ででしょうか。その愛しきお方が物凄く納得がいってないようなお声を出すのが、気になるんですけれど。もしかして…その痩躯を閨房の寝間にでもねじ伏せられて、あられもない声を出さにゃならんような目に遭っての“尋問”をお受けになられたとか?
《 〜〜〜〜〜っ、うっせぇなっ!////////
《 もーりんさんたら直球〜〜〜vv
 …ははあ、ホントにそうだったんですか。/////// ある意味、人間より分かりやすい人たちだ。
(苦笑) ご紹介もすっ飛ばしての馴れ馴れしい口利きにて、お二人の間柄の仄めかしの方を、先にちらりとご披露しちゃってみましたが。昨年の同じ頃合い、魔界から帰って来るという亡者たちを追い返す夜祭りの陰で、追っ手を抱えて困っていた苦境の王子様を、心優しく愛らしい少年へと引き合わせてやったのが、何を隠そうこの二人。それこそ魔界の眷属という立場にありながら、何でそんな“善行”をしたかといえば、桜庭さんがぽろっと零したその通り、思わぬところでセナくんから受けた暖かだったお世話への、恩返しをしなくちゃいけない立場にあった蛭魔だったから…らしいのだが。

  《 でもサ、どこまでが“それだけ”を理由にした骨折りなんだかね。》

 金髪痩躯のその身にまとった、挑発的で華麗な美貌が…なのにどこかで妖冶な相棒さんとは一線を画し。こちらさんはそりゃあ健全そうな、いかにも正統派のノーブルな美形。成年へのかっちりと頼もしげなラインや風貌を今にも完成させそうな、そんな男らしさを、だがまだ若々しい、清潔で青い香りのするままの伸びやかさの中に留め置いた。まさに匂い立つような爽やかさをたたえた好青年風…のお人なのだが、
《 気ィつけな。こういうタイプは、人間でも魔物でも、一番に性
たちが悪い極悪人だと相場は決まってるんだから。》
 すかさずの茶々が入ったものの、
《 そんなのだって判ってて、毎晩 組み敷かれちゃあ 唏
いてるのは誰かしら。》
《 な…っ! ////////
 おおう。こうまで言われたからにはと、強かなところをご披露でしょうか、桜庭さん。どうでもいいが、さっきから惚気ばっかで一向に話が進まないんですが。
(苦笑)
《 だーかーら。何でまた、今年もハロウィンを前にここに来ちゃったんだかってこと。》
 それを説明してもらえませんでしょうかと、さっきから相棒さんへと絡んでる亜麻色髪の魔導師さんであるらしいのだが。おやおや、だって此処は一応はお二人の縄張りだったんでしょうに。
《 ここだけじゃあないもの。それに僕らの役目は、恨みつらみを滴らせ、黒の意思に染まった呪われた魂を集めること。》
 こんな幸せそうなところにそういう魂があろうもんかって言ってるの。それで、他にも思い入れがある妖一さんなんじゃないかって、怪しんでたり やっかんでたりする桜庭さんなんだったりしたのだけれど。
《 それはどうかな。》
 幸いに満ちてるという表現へか、鼻先で笑って見せた蛭魔さんであり、
《 ?? 何かあるの?》
 豊饒の秋への幸いしか感じ取れない王宮だけどと、小首を傾げた桜庭さんへ、

  《 少なくとも、病める魂が1つと、
    それに引きずられそうになってやがる
    馬鹿正直にも誠実が過ぎる奴らの不幸の気配が、あるにはあるからな。》


 にんまり笑った黒づくめの悪魔様。それを嗅ぎとって、はてさて。魔界の眷属であるこの二人。どんな格好にて関わるつもりでおいでやら。お話は後半へと続くのでありました。






TOPNEXT→***


  *結構好評だったので、今年は続きを書いてみてます。
   ところで、その前作のラストにて、
   弟王子様には“進清十郎”と名乗らせたのですが。
   となると、
   セナくんが“進さん”とか“進殿下”と呼ぶのはおかしいでしょうか?
   ウチでは“清十郎さん”と呼ばせたことって、
   確か、一度もなかったんじゃあ…。